99年1月27日
・・・文化を育てる・・・

 私が定期的に指揮している福島県のいわき市には、「いわき市音楽館」という音楽専用の練習施設がある。平市民会館に隣接する4階建ての棟に、大練習室2(ひとつはコンサートのできるステージをもつ・客席200名程度)、中練習室2(ひとつは邦楽用に和室にすることができる)、小練習室7を備え、市民の音楽愛好家が破格の使用料で利用できる。オーケストラの練習を大練習室でしていると隣の小練習室でロックバンドが盛り上がっている(ドラムセットは据え置き)。また他の中練習室では合唱団や邦楽関係者が美しい響きを奏でているといった具合だ。この施設は10年間に亘る市民の働きかけによってできあがったと聞いているが、いわき市の文化活動の中心としての大きな役割を担っているものと言えよう。ただし平市民会館の方は築30年が過ぎて、相当老朽化しているので、新文化会館の建設が待たれている。

 仕事柄アマチュアの音楽愛好家の皆さんとのお付き合いが多く、それだけ悩みも聞くことになるが、どこでも練習場の確保には頭を悩ましているのが現状だ。特にオーケストラは音が大きいので、普通の公民館では利用を断られることが多い。稀に学校の音楽室を優先的に貸していただいているケースがあるが、これなどは恵まれている方である。ほとんどの団体が練習場所を求めて、毎月公共施設の抽選にいったり、練習ごとに会場を変える「ジプシー生活」を余儀なくされているのだ。冒頭に紹介したいわき市の例などは羨望の的であろう。借りたくても音の出せる練習場所すら無いために、活動が続けることができない地方のアマチュアオーケストラをいつくも知っている。

 年末には「第九」が全国各地で公演されたが、どの地区も行政からの補助金を得て、充実した運営をしているようだ。ただし行政側も「第九」なら助成するが、他の公演では、そうはならない場合が多いと聞く。とても残念なことだ。

 2月に船橋市総合体育館アリーナで開かれる「千人の音楽祭」は、今年でもう6年目を迎えるが、市の主催行事でこのような企画が長く続いていることは全国的にも非常に稀であり、素晴らしいことだと思う。

 これだけ市民の文化が盛んになり、生涯教育の活性化が唱えられるようになった昨今、行政にたいして強く望むことは、発表の場、鑑賞の場としての文化行事への積極的な助成と、日々の活動を支える活動の拠点を整備することである。この両輪がうまく回らなければ、いくら市民の意識が高まっても文化の発展は望めない。

 文化・芸術はスポーツと違って点数や記録で評価できるものではない。また早期に結果を出すことも困難であるため、非常に地道な活動になるだろう。しかし21世紀に向けて、この殺伐とした現代の生活に潤いを与えるのは、他でもない「文化活動」であると確信している。生涯教育の今後の見通しについて、長期的視野に立った思い切った計画を望むものである。