2000年8月1日
・・・心にしみる音楽・・・

 あるオーケストラの小品のCDを探しに某有名CD店に行った。いつもはあまり寄らないホームミュージックのコーナーでなにげに探していると、今時の癒し系のオムニバスCDが目に付く。一昔前はNHKの「名曲アルバム」くらいしかなかったこのジャンルだが、十年ほど前に発売されたカラヤンの「アダージォ」を皮切りに、又最近では坂本龍一の「エナジー・フロー」が栄養剤のCMでブレイクしたのをきっかけに、実に興味深いCDが店頭に並べられているのに今さらながら気が付いた。

 タイトルの一例を紹介すると「初めて聴いたクラシック」「どこかで聴いた〜」などは入門編。「星の音楽」「月の音楽」「カラーシリーズ」の赤・青・白などはイマジネーションを膨らませることができるが、「サルでもわかるクラシック」「のほほん〜」「しみじみ〜」といった具合でかなりウケをねらっているものもあった。極めつけは「音楽のくすり」。いくつかシリーズになっていて、「脳のパワーの増進剤」というCDには何と成分、効能、使用上の注意まで明記してあって、思わず苦笑してしまう内容の記載が多々あった。

 これらのCDは一枚に数多くの曲が無国籍状態でつまっているが、どういう方が企画し、選曲しているだろうを想像してしまう。音楽療法もここ数年来定着してきたように思えるが、殺伐とした潤いの無い現代社会の中で、人々がいわゆる「癒し系」の音楽に傾倒していく感覚、趣向もわからないではないが。

 ただ注意すべきは、収録されている曲が、すべて自分的に癒されるものではないこと。一枚のCDで2〜3曲めぐり会えば良いほうだろう。聴きたくない曲もあって当然だ。聴き手のその時の心理状態や環境で、同じ音楽でも悲しく聞こえたり、元気づけられたり、感動が込み上げたりと様々なとらえ方ができるものである。知らない曲を聴こうとするあの瞬間が、私はスリルがあって好きである。何回か聴いていると、そのうちあるメロディを鼻歌で歌いたくなる。こうなったらしめたもの。次にその曲や演奏者、または作曲家にこだわったって掘りさげていけばいいだけのことだ。出会わないことには感動も、また発見もしない。そういう意味では、こうした多国籍CDの存在価値も高いものがあると思う。クラシックに限らず、ジャズやポップスなど、たくさんの種類の音楽を聴き、体験することが、本人のミュージックライフを豊かにする近道なのだから。

 私にとっての癒しの音楽はバッハのカンタータである。普段大音響のオーケストラと接しているので、こうした小編成の宗教曲は私の中で特別な位置づけをしているのかもしれない。ふと耳が疲れた時にバッハのコラールは心にしみるのである。特に106番のカンタータは大切な一曲だ。

 そんな私も最近では知り合いの和泉宏隆氏(Tスクエア)に触発されてか、ポップス系ピアノソロに大きな関心を寄せている。透明感のあるあの美しいピアノの調べに、心が奪われる。さて読者の皆さんにとっての「癒し」の音楽とはいかがなものであろうか。


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