* エッセイ集 *

2005年7月
・・・時にはこんなお仕事も!!・・・


  クラシック関係の仕事ではないのですが、この春に日本を代表するお二人の歌手と共演をさせていただきました。
まずお一人は「五木ひろし」さん。4月14日、東京プリンスパークタワーホテルのディナーショーでのことです。開館記念ということでフル編成の東京シティフィルをバックに、五木さんのショーが繰り広げられました。作曲家の服部克久さんがゲストで、服部さんと私と半々で指揮をしたのです。花のワルツの他、五木さんの十八番「よこはまたそがれ」など5曲を指揮しました。
前日リハーサルで私がプロデューサーと打ち合わせしていると、横から「おはようございます」とさわやかな声が。最初五木さんとは知らずに、素っ気なく「どうも」なんて返していましたが、本人と知り再度ご挨拶をしました。そしてオーケストラのみなさんにも丁寧な言葉。さすがに紳士です。前日もそして当日のリハーサルでも、まったく手を抜かず、全力で歌っていらして、本番が大丈夫かと心配したほどです。
本番の半分を私はステージの袖で聴かせていただきました。まず感心したのが五木さんの巧みなトークです。思い出話などを交えながら、次の曲の紹介へと自然に流れをつくり、そのしゃべり口は一言一言をかみしめるように、ゆっくりとした口調で、満席のお客様の心をつかんで離しません。
そして当然ですが、歌が上手い!本当に聴かせるのです。ここでこうやってほしいというこちらの欲求をすべて満たしてくれる。歌詞の一句一句が心に染みこんでくるのです。特にクライマックスの古賀メロディ「影を慕いて」には、とことんまいりました。袖で聴いてきて思わず、グッとこみ上げてきてしまいました。休憩なしの2時間以上にわたるステージを汗びっしょりになって歌い切った五木さん。さぞお疲れのことと思いましたが、最後まで何度も何度もお客様へのお礼と感謝の挨拶をされていました。

もうお一人はジュディ・オングさん。6月26日、静岡県磐田市竜洋町でポップスコンサートでの共演でした。演奏は竜洋フェスティバルオーケストラ。オーケストラとの練習をしてから、ご自分でじっくり勉強したいというジュディさんの希望でリハーサルは10日前でした。当日のリハの前にも私とアレンジャーを楽屋に呼んで綿密な打ち合わせをされました。ジュディさんはリハの時の自分の歌をきちんとMDに録音して勉強をしていて「ここのこの音の輪郭をもっとはっきり」などアレンジャーに要求し、楽器を加えたり直前まで「良い音作り」に余念がありません。才色兼備という言葉はジュディさんのためにあるのだと思います。普段はとても気さくなジュディさんですが、あの美しい瞳の奥に秘めた音楽への熱い思いを感じた一瞬でした。
本番では1部の映画音楽のあとにジュディさん登場です。会場の雰囲気が一気に華やかに変わり、お客様もジュディさんの美しさ、微妙な歌い回しに釘付けです。ジュディさんのトークは実に軽妙で、お客さんの反応を見ながら、楽しませることを忘れません。そして「魅せられて」ではあの衣装も身にまとい、万雷の喝采をうけていました。

お二人との共演をさせていただき、クラシックとはジャンルが違いますが多くのことを学ばせていただきました。それはやはりプロ意識ということ。音楽への要求が高く、妥協しない姿勢。歌に対するこだわりと、陰影あざやかな節回し。それはお客様に媚びることではなく、ご本人の持ち味を最大限に生かせるための表現なのだと確信しました。
 それに素晴らしいお人柄。大スターなのにけして奢ることなく、とても親しみやすく、周囲のスタッフにも気遣いを忘れません。そのお人柄に心から魅せられてしまいました。


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