* エッセイ集 *

2004年7月
・・・初夏の南信州 2つの小規模中学校で特別授業?・・・


   6月の初旬のこと。仕事で長野県飯田市に行ったついでに、昼間の自由時間を利用して山村の小さな2つの中学校に出向き、音楽集会や授業をさせていただいた。久しぶりの学校現場。昔とった杵柄何とやらで、普段にも増して燃えてしまい、また現地の皆さんの暖かいお人柄にふれることができ、充実した2日間を過ごすことができた。両校の音楽の先生とは指揮の講習会で知り合ったのだが、お二人とも小さな学校で地域とのつながりを深めながら、活発に指導されていらっしゃる素晴らしい先生方だ。
 
ひとつは天龍村の天龍中学校、長野県の最南端の中学校です。飯田市から車で1時間。途中からの国道は眼下に天竜川を見下ろしながら、まさに断崖絶壁の淵を走り抜けるといった感じ。絶景ではあるが、運転している自分も車酔いしてしまうかのようなカーブが続く。中学校に着くと、この日は特別授業ということで、すでに体育館で講演が行われていた。同校で40年近く前に教鞭をとられ、現在は千葉県我孫子市にある山階鳥類研究所の所長をしていらっしゃる山岸 哲先生の鳥についてのお話を中学生たちが聞いていた。山岸先生とは昼食をご一緒させていただいたが、その席でもカラスの知られざる生態や自然保護の大切さ等非常に興味深いお話を聞くことができた。またひとつ素晴らしいをさ
せていただいた。
 さて私は4時間目の授業、全校音楽に参加させていただいた。全校生徒30名によるア・カペラでの合唱で「大きな古時計」を見事に歌っていた。その指導に約20分、それから持っていった馬頭琴の紹介とチェロの演奏に20分という時間割で、あっと
いう間に楽しく時間が過ぎていった。
 生徒数は少ないがだからこそ一人一人が主役。部活動や生徒会活動なども活発に展開している。特に今年の生徒会のスローガンは「無我夢中」。これは駅舎にも掲げてあるという。何かに夢中になれること、没頭できることの大切さを生徒自身が理解し、そして実践している姿が目に焼き付いた。
 
翌日、今度は浪合村という初めて聞いた「村」の学校に行った。中学生は26人。しかしここは保育園から中学校までが同じ校舎を使っていて、校門には「浪合学校」とだけ掲げられていた。こんな表札は初めて見たが、もっと驚いたのはその校舎の美しさ、モダンな設計だった。こんな田舎に(失礼)なぜこんなにも素敵な校舎が??聞けば今の日本の建築界の粋を集めて設計されたもので、91年には日本建築学会賞も受賞しているというのもうなずける。教室はオープンスペース、ランチルームは広く、保育園児も一緒に食べるのだとか。また公民館としての役割もあるので村民が常に関わっていて、学校への関心も高い。まさに村民の心の拠り所としての機能を十分に果たしているのだろう。加えてもうひとつの特徴として「浪合村通年合宿センター」と称して、子ども自らの希望で、都会から親元を離れて合宿生活をしながら通学している小中学生が10名程度いるのだそうだ。こうしたユニークな教育方針、一人一人の個性を生かす学校づくりは、今の都会の小中学校が忘れかけている「心のふれあい」の大切さを思い起こさせる教育の場だ。
 ここでは中学3年生9名による音楽の授業をさせてもらった。なんと彼ら9名で合唱コンクールに出場するという。まだ音取りをして3時間くらいだそうだが、すでに「そのひとがうたうとき」という難曲をほぼ完璧にアンサンブルをしていた。彼らは全員テニス部の選手。また地域ではこれも全員で詩吟に取り組んでいるのだそうで、合唱との発声の違いに悩むのだとか。外観だけではない、中身の伴った教育がそこにあった。
 天龍中も浪合中も、小規模校だからこそできるきめ細かな指導と、生き生きと輝く生徒の瞳が印象的だった。ふとまた行きたくなる、そんな学校だ。     


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