* エッセイ集 *

2004年3月
・・・こだわりのカバン・・・


 皆さんは人と会ったときに、その方の持ち物のどこを(何を)まず見るだろうか?「足元を見られるから、いつも靴は良いものを、そしてきちんと磨くように心がけている」という人もいるだろう。ネクタイでおしゃれを楽しんでいる諸氏もいるはず。私の場合は、どうしても鞄にこだわってしまう。初対面の人が素敵なカバンを持っているとどうも「どこ製かな?いくらかな?」などと気になってしまう習性なのだ。
男にとって鞄は毎日持ち歩くもの。それが薄いブリーフケースだったり、小脇に挟むようなポーチだったりもするが、そうした鞄に少なからずこだわりを持っている人も多いのではないか。私もその一人だから。私は服や靴にはほとんどこだわりがない。しかしカバンは別物なのだ。フーテンの寅さんのあの四角い鞄に
あこがれてしまうのは自分だけであろうか。
鞄はいわゆる自己表現のひとつであると思う。「いい鞄を持っていますね」と誉められると、つい自分のことを評価されたかのような錯覚に陥り、うんちくをたれてしまうのだ。(笑)

旅の時によく使うキャスター付きのトロリーケースはもとより、普段指揮棒を入れたり、メトロノームや筆入れ、財布などを入れる鞄には、その材質、形や色、ストラップの位置、鍵の有無、使い勝手の良さなど、ひとつひとつにこだわりがあるわけだ。鞄の中身はその人の中身を表す、とまで言うのは言い過ぎだろうか。10年ほど前、ふと立ち寄った高円寺のガード下の鞄屋さんで見かけた、がっしりとした鞄。ひとめ惚れだった。迷いもせず衝動買いしてしまった。日本製のM社の茶色の革のカバン。さすがに革はちょっと重いけれど、重厚感があって、主張がある。鍵もダイヤル式だから面倒でないし、ストラップも肩に馴染んで落ちにくい。また型くずれもしにくいようにしっかりと縫ってある。そして何より手頃な値段。
あれから10年、3回ほど修理に出して使い込んできた。いよいよ相当くたびれてきたので買い換えようと、その高円寺の店を訪ねた。店の主人は「最近ではナイロン製が主流で、お客さんのように革にこだわる人は少ないよ。もうM社も作っていないよ。」とのこと。がっかりだった。なるほど店内に革製品の在庫も少ない。なげかわしい限りだった。ナイロン製は確かに軽いが、それだけ。主張が感じられない。なんだかつまらないのだ。まるで最近の車がみんな丸くなって、昔のような四角い顔をもった車が少なくなってきているのと同じではないか。「お客さんのように大切に使い込んだら、カバンも喜んでるよ」と店主。

それからカバン探しの旅が始まった。旅で地方に行くたびに必ず百貨店に出向き、あれでもないこれでもないと物色しつづけること一年近く。これまで使い込んできたカバンと同じ形状のものを探していたが、どうしても気に入ったものを見つけ出すことができない。帯に短しタスキに長しの状態なのだ。浅草橋のM社のショールームにも行っても無い、M社のホームページでも紹介されていない。
もうだめだ、半ばあきらめていたときにインターネットで鞄屋さんの検索をすると、三鷹のある老舗の鞄屋さんのホームページにあたった。店内の紹介の写真の中に、手元にあるそれと同じような感じのものが写っているではないか!!すぐさま車を飛ばして三鷹に向かい、その店を訪ねた。「あった!これだ!これだ」。同じM社の製品。内装や色が少し変わっているが、外形は同じ、鍵もストラップも昔のままだった。ほとんど値上がりもない。もしかしたら売れ残りかもしれないと思いつつも、初恋の人に数十年ぶりにやっとの思いで再会したときのような(そんな経験はないが)感動がこみあげて。。。。。。速攻で買い求めた。これだけカバンにこだわる自分はやっぱりおかしいか?
幸せな気分で帰宅し、中身を詰め替えることになった。さて使い古したかばんをどうしようか。すぐには捨てる気にもなれず、いまだに納戸にしまい込んである次第である。処分するときは淋しいなあ。

他にも普段楽譜を入れて持ち運ぶショルダーはスロヴァキアで購入した革製。ちょっと書類を入れて持ち運ぶブリーフケースは財布や名刺
入れとお揃いのヌメ革製だ。30キロ近い荷物を入れて国内や海外を移動する旅が多いので、トロリーケースは頑丈なものを用意してある。
そういえば日帰り用のキャスターバックもあるし、リュックや他にもトートバッグなど山のようにある。いったいウチにはいくつのカバンがあるのだろう。数えたこともないが、使わないからと言って思い出がつまっている品を簡単に捨てるわけにもいかず、どんどんたまる一方だ。物を大切にするのも考えもの?ということか。


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