* エッセイ集 *

2003年6月10日
・・・罰金王国?シンガポール・・・


 3月下旬、シンガポールに行って来た。現地に親戚が住んでいるので3泊5日の短い観光旅行だった。春とは言え、日本ではまだまだ寒い日がつづいていたが、さすがに常夏の国の気温は強烈に高かった。チャンギ空港を出て外気に触れたときのあのムッとした感触は忘れない。
 シンガポールは予想していた以上に近代化が進んだ国だった。高層ビルが建ち並ぶオフィス街、ビルの高さといい豪華さといい、日本の比ではない。地震がない国なので、上へ上へと伸びていくようだ。町並みで感じたのは、とにかく緑が多く、木の高さが非常に高いことだった。熱帯気候だから木もぐんぐん伸びる。まるでビルと競争しているかのようだった。シンガポールが「ガーデンシティ」と言われるゆえんだ。食事はインドネシア料理をイメージしていたが、まったく予想がはずれてしまった。食堂のほとんどが中華料理なのだ。それもそのはす国民の80パーセント近くが中国系の民族で、残りがマレー系やインド系なのだそうだから。ここは北京かと思うくらい中国語の看板が多い。アジア人そのものの顔をした現地の人々が流暢に英語を話すのだから、とても妙な気分になった。公用語は英語を筆頭に4つもあるそうだ。宗教も多種にわたり、町中には仏教、イスラム教、ヒンズー教の教会か隣り合わせで立ち並んでいるのも面白い。
 また生活習慣の違いに驚かされることもあった。なんとシンガポールの妻は食事を作らないそうだ。三食とも外食の家庭が多いと聞いた。なぜなら安くて早くて美味しいから。共稼ぎの夫婦が大半を占めるのも理由のひとつだろう。だからいたるところに屋台や食堂があって、いつも混み合っているのだという。小学生の給食は昼ではなく朝食だそうだ。学校は午前で授業が終わるので昼食は子どもたちもやはり外食となる。「おかあさんの手料理」や「お弁当」などもないのだろう。家事から解放されている主婦をうらやましいと思えるかは微妙なところだ。
 シンガポールというと何でも罰金が科せられるので有名。喫煙も制限があるというので、かなり心配して行ったのだが、町には灰皿がいたるところに設置してあって、そこで立ち止まって喫煙すればOK。案外苦もなくたばこが吸えた。しかし信じられない罰金制度もある。車があまりにも汚いだけでも罰金を取られるとか。調べてみると、未成年の喫煙や横断歩道以外での道路の横断、公共の草花や木を折ると3千円、という少額のものからはじまって、地下鉄駅構内や車内での飲食3万円。ゴミのポイ捨てや道に唾や痰を吐いたり、禁煙指定場所での喫煙、立ち小便、野鳥の餌付けなどはなんと6万円。もっと驚いたのは未成年へのたばこの販売や譲渡が30万円、野生の猿への餌付けは60万円もする。そして再犯は2倍、再々犯は無条件で4倍にもなるという。国民は全員IDカードを常時携帯していなくてはならず、違反した場合はすぐにIDカードと照合して、初犯か再犯かが判明するわけだ。罰金の代わりに強制労働もあるという。目立つ格好で何時間も町の清掃をするらしいが、これはかなり恥ずかしいものだと思う。取り締まりも厳しく、たとえば警官は「小便探知機」を持ってパトロールするのだそうだ。ここまで書くと何と窮屈で管理された国だろうと思うが、そのルールはほとんどが基本的な生活マナーのようなもの。現地の人はそれほど苦に感じていないそうだ。定着していると言えばそれまでだが、考えてみるとあたりまえのことができないのなら罰金も仕方ないと割り切っているようだ。
 最近では千代田区で昨年11月より罰金を伴う条例が施行された。千葉県内でも船橋市や八千代市が数年前から「ポイ捨て防止条例」が制定されているが、それぞれ効果は上がっているのだろうか。飲酒運転の罰金が30万円になったことにより、劇的に飲酒や酒気帯び運転の違反者が減ったと言うが、そうなると日本にも、シンガポール並みの罰金制度が必要なのかもしれない。だがちょっと考えもの。人命に関わる道路交通法を厳しくするのは当然だが、やはりマナーは常識的判断にまかせたいもの。金で解決するなどあまりにも淋しい気がする。心の中にすきま風が吹いてくる。


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