* エッセイ集 *

2002年3月1日
・・・新しい音楽鑑賞教室の取り組み・・・


 1月31日と2月1日の2日間、浜松市で小学生のための音楽鑑賞教室が開催された。私はこれまでに音楽鑑賞教室という小中高生限定のコンサートは数限りなく取り組んできたが、浜松のそれは今までとはまったく違う角度からのアプローチを試みたものとなった。                

 まずこの企画は、市教委指導課、市長部局の文化政策課、アクトシティ音楽院の三者の連携によって発案された。これまでにこの三者が共同で開催するイベントは無かったという。画期的なその企画を立案し、議会の承認を得て実現となった。もちろん浜松市長、教育長をはじめ各関係機関の強力なサポートがあったのは言うまでもない。そしてまったく新しい試みとしては、コンサートの企画の段階から現場の先生方の研修の場として位置づけをし、テーマの選定、選曲や台本、パンフレットの作成などの運営にあたったことだ。オーケストラは名古屋フィルハーモニーが担当し、多くの助言をいただいた。また楽員の協力により事前に楽器紹介のビデオを制作し、各校の事前授業に役立ててもらった。コンサートは駅前のアクトシティで、浜松市内の全小学5年生6000人を3回の公演に分けて開催された。1回につき児童が2000人。さらに一般公募による各回200名聴衆が会場を埋めつくした。指揮者は教員の代表というかたちで司会も担当。さながら大きな音楽室での授業のようだ。

 企画運営のすべてが画期的なものばかりで、直前にはマスコミからも注目されたこのコンサート。今回のテーマは「こんにちはオーケストラ」。はじめてオーケストラを聴く小学5年生に向けてのメッセージだ。休憩なし約70分を三部に分けた構成で、ウィリアム・テルのスイス軍の行進ではじまり、踊る子猫、新世界交響曲の第4楽章までが第一部。新世界交響曲は各楽章のテーマを名フィルの皆さんに演奏してもらった。児童に配布したパンフレットには各テーマの譜例が紹介されているから、それを見ながら曲の構成をつかめるように指導していく。第二部は子どもたちとオーケストラの共演コーナー。今教室で親しまれているビリーブの見事な大合唱。浜松の五年生の児童は本当にきれいな発声で、丁寧に歌い上げていた。これにはオーケストラの面々もびっくり。そして2曲目はエルガー作曲「威風堂々」と続いた。教科書には有名な最後のテーマがリコーダー奏で載っているが、原調に戻して二重奏にアレンジしなおした。各学校で練習してきた成果を合同演奏で発表する瞬間だ。2000人のリコーダーはひとりとして乱暴に吹きまくる子もなく、整然と清らかな音が会場いっぱいに流れた。2000人、つまり4000個の瞳が指揮台に集中され、まさに壮観の一言に尽きる。涙ぐむ先生もいたほどだ。第三部はじっくり聴くコーナー。スターウォーズ、花のワルツ、フィンランディアと続き、ラデツキー行進曲で閉じた。行進曲はもちろん手拍子つき、一般参加の方も笑顔で手拍子に参加してくれた。

 大成功に終わった鑑賞教室。これまでの鑑賞教室では感じることのできなかった大きな充実感を味わうことができた。名フィルの皆さんも同じ印象だったと思う。翌日、市当局や楽員の方々からたくさんの賞賛の言葉をいただいた。6000人をバスで輸送し、大ホールでプロのオーケストラを招いてコンサートをすることには相当な予算が組まれていたに違いないが、「音楽のまち浜松」の具体的な実践例として大変高い評価を得たことだろう。今回とても気になったのは、一般参加者の中にご高齢の方が大変多くおられたことだ。小中学生に生のオーケストラを体験させることは重要だが、世代を越えて市民が「親しみやすい音楽」を求めていることがはっきりした。今後の課題はこうした鑑賞教室を定着・拡大させることと、高齢者にもやさしく楽しい廉価なコンサートを増やすこと。また一方で、入門編では物足りないが何万円も出して高価なコンサートに足を運ぶほどクラシック狂ではない、いわゆる普通の音楽愛好家にとって満足するコンサートを企画する必要があるだろう。浜松が真の「音楽のまち」になるには、まだまだ困難が待ち受けていると思う。しかし今後も積極的に企画展開し、全国に発信していってもらいたい。浜松市はそれを成し得る街だと思う。



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