* エッセイ集 *

2001年10月1日
・・・おわら風の盆・・・


 9月1日から3日までは富山の八尾町で全国的にも有名になった「おわら風の盆」が開催される。折りよく丁度そのころ仕事で富山に居合わせたので、2日目に富山のオーケストラの方々と見物に行くことができた。信じられないことに夜中の1時過ぎまで臨時列車が何本も増発されていて、越中八尾駅では乗降客がひっきりなしだった。我々が着いたのは夜の9時をまわっていたが、まさに佳境に入ってきたところで、駅前は大混雑だった。盛り上がっている町並みまでは駅から歩くこと20分、井田川を渡ってさらに奥に位置する。普段は2万人くらいの人口の町に、この3日間で20万人もの観光客が詰めかけるという。

 「おわら風の盆」は300年も前から伝わり、豊作を祈り、また同時に風害からも守る意味合いも込めた静かな夜祭だ。男女の踊りが分かれており、それぞれ笠をかぶっているので顔はほとんど見えない。町会ごとにそれこそ1年がかりで練習し、町の中を流すという。その歌と踊りは非常に情緒豊かで、風情のある光景だ。町をねり歩く各町会の皆さんの踊りを間近で見ていると、それまで盆踊りのようにイメージしていたものが一変した。「見たさ逢いたさ思いがつのる、恋の八尾はオワラ雪の中」という歌は非常にかん高い声で歌われるが、誰もが歌えるわけではない難しい歌だった。まずその声に圧倒され、そして三味線と小鼓や胡弓の伴奏に惹きつけられた。とくに胡弓は尺八の役割をするものだと直感したが、音色が非常に洗練されていて、流れ出る音からしみじみとした風情、どこかさみしい味わいがかもし出されてくるのである。夜中だと言うのに町の中に三味線屋さんが営業しており、興味津々の私は早速さわらせてもらった。弓が異常に弛んでおり、音を出すことさえ難しいのに、さらにそれに「こぶし」をつけるのがまた一苦労。またこうした歌や楽器を伴って舞う踊りも、興味深かった。間近で見る踊りはなかなか激しいもので、特に男踊りは力強く華麗な舞だ。そこでびっくりしたのがその踊りを踊っている男女が、みな異常に若いのである。年令制限があるのかと思わせるくらい、10代から20代前半の若者ばかり。和服をしっかり着こなしている女の子も中学生だ。茶髪の若者も何人もいる。みんなこの3日間は学校も全部休みで、当然のように「風の盆」に参加するそうである。八尾出身の人々もこの日ばかりは帰ってきて踊りに参加する。

 たいてい郷土芸能というと中高年層が、その伝統と技術を絶やさないように保存していく有様を想像しがちだが、こうした若者が積極的に参加し、しかも真剣に踊っている姿を目の当たりにすると、あらためて故郷の大切さを痛感してしまう。そしてやはり祭は見るものではない。参加してはじめてその真価がわかるのではないだろうか。次回もし行く機会があったら是非練習をして、大きな輪踊りの中に入ってみたいと思った。

 私の住む町は埋め立ての新興住宅地だ。まだ20年の歴史しかなく、祭りも民謡も無い。しかし住民は創意工夫を凝らして新しい祭りを企画し、もう何年も続いている。将来この地が故郷になるであろう今の子供たちに、大人は何を残せるだろうか。


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